はじめに
近年のマーケティングにはSTP分析が欠かせません。
マーケティング初心者にとっては、「言葉は聞いたことがあるけれど、具体的なやり方がわからない」という方もいると思います。
そもそもマーケティングとは、市場が求めているものは何かをつきとめ、効果的に自分達の会社が扱う商品を提供して利益を出すことです。
そのために、どんな人にどうやって自分達の商品やサービスを売り込んでいくかを考えなければなりません。
そのときに役立つのがSTP分析です。
ここではマーケティング初心者に向けて、STP分析の手順や、どんな効果があるのかを紹介します。
STP分析とは
STP分析のSTPとは、下記で紹介する単語の頭文字です。
・セグメンテーション=Segmentation
・ターゲティング=Targeting
・ポジショニング=Positioning
STP分析を簡単にいうと、市場を細かく区分けし、売り込んでいく際に標的とする市場を絞り、会社の立ち位置を確認することです。
この分析結果をもとに顧客のニーズに応えるマーケティング戦略が可能になります。
STP分析の考え方は、ゼネラルモーターズ社の社長に就任したアルフレッド・スローン氏が提唱した、「顧客セグメンテーション」がはじまりといわれています。
スローン氏は市場の細分化と製品の差別化により、所得階級によって欲しい車も変わることを分析し、ニーズに合わせた車を作ることでゼネラルモーター社を業界トップに導くことに成功しました。
企業が作りたいものを大量に作り、大衆に広く買ってもらうというそれまでの考え方から、買う人が本当に欲しがっているものを届けることで利益を得るという考え方に変わらないと、ものが売れなくなってきたのです。
そのあと、フィリップ・コトラー氏がSTP分析の方法を確立し、STP分析は近年のマーケティング戦略のうえで欠かせないものになったのです。
STP分析の考え方
STP分析は、いわば顧客志向のマーケティングです。
STP分析を確立させたコトラー氏は、マーケティングを「ニーズに応えて利益をあげること」だと定義しています。
まず、S:セグメンテーション(市場を細分化)、T:ターゲティング(標的を設定)、P:ポジショニング(立ち位置を確認)という3つの作業をもとに市場を分析します。
そこから顧客のニーズをあぶり出し、求めているものを求めている人達に提供し、会社にとって効果的な売れる仕組み作りにつなげることが目的です。
S:セグメンテーション
セグメンテーションは、どんな人がどんなものを求めているのかを探るために、「どんな人」のタイプを細かく分ける作業です。
何かしらの項目に分けることで、売りやすい市場を見つけることが目的です。
どの角度からどこまで厳密に細分化するか、またどのような指標で細分化するのが効果的なのかは、会社の事業規模や売り込みたい商品によって変わります。
ここでは一般的な指標として、下記3つの変数を紹介しましょう。
・心理的変数
・人口統計的変数
・行動変数
心理的変数
その人それぞれのライフスタイルや好み、価値観などその人の心理的な要素に着目して区分けする方法です。
たとえば食べ物では、値段が高くても無添加・無農薬のものを好む人もいれば、とにかく安いものを求めるコストパフォーマンス重視の人もいます。
ゆっくり昼食をとりたい人もいれば、時間優先で手早く済ませたい人もいます。
洋服でいえば、ブランド志向の人もいれば、ブランドにはこだわらないけれど素材にはこだわる人など、人の価値観はさまざまです。
近年は特に、顧客の好みは多様化しているので、この心理的変数の重要度は高くなってきています。
アンケート調査やヒアリングなどの結果をもとに判断します。
しかし実際に似たような価値観の人が、どの程度いるのかをつかむのは難しく、ほかの変数と組み合わせて活用する必要があるのです。
人口統計的変数
年齢・性別・家族構成・学歴・職歴など、人の変わらない基本的な情報をもとに区分けするやり方が、人工統計的変数による方法です。
たとえば小さな子どものいる専業主婦に、ビジネスバッグや女性用のビジネススーツを売り込んでもうまくいきませんし、独身の一人暮らしの人に大容量の食材は売れないでしょう。
高齢女性と若い女性では、好みの洋服も違います。
また人口統計的変数である年齢や性別、家族構成といった基本情報は、公的な調査による統計結果が手に入れやすく、データの確実性も高いのでもっとも基本的でわかりやすい区分け方法です。
この基本情報である人口統計的変数に、住んでいる国、地域、気候による属性で区分けする地理的変数を包括させることもあります。
行動変数
行動変数とは、過去の購入状況や使用頻度、購入パターンなど、人の行動をもとに区分けする方法です。
具体的には、商品をどのくらい利用しているか、どの時期に多く利用しているかなど、その人の行動をもとに区分けします。
たとえば1ヶ月に一度の頻度で利用する人と、半年に一度の頻度で利用する人、年に一度の頻度で利用する人に分けたり、はじめてのお客様と何度も足を運んでくれているお客様とを分けたりします。
セグメンテーションに利用する場合は、会員カードなどで来店履歴や、購入履歴のデータを活用して区分けすると良いでしょう。
この行動的変数で区分けするセグメンテーションは、特にWebマーケティングにおいて、購買パターンや購入履歴の把握がしやすいため主流の変数です。
T:ターゲティング
ターゲティングは、セグメンテーションの作業で細かく区分けしたグループの中から、どのグループに向けて商品を売り込むかの的を絞り、ターゲットを決定することです。
多くの人から支持を得ようと的を絞らずにいると、競合他社の商品との区別化がされず、結果的には誰からも買ってもらえなくなってしまうでしょう。
適切にセグメンテーションがさていれば、自然に商品のブランドイメージや、価格帯にあったグループに的が絞られていきます。
ターゲットは何を視点にしてターゲティングをするかによって、3つの種類に分けられます。
ここで3つのターゲットをご紹介しましょう。
コンセプチュアル・ターゲット
どのような人をターゲットとするかという視点で的を絞ったターゲット、がコンセプチュアル・ターゲットです。
その商品を必要としている人の性別、年齢、趣味、ライフスタイルなどを細かくセグメンテーションした結果、浮き出てきた人物像をターゲットにし、その人物像の欲求を満たす商品の開発をしたり、広告活動に役立てたりするということです。
つまり会社や商品のコンセプトにぴったりはまるターゲットということになります。
顧客のニーズをあぶり出して、ニーズに応えるという意味では直接的なターゲットといえます。
細かいセグメンテーションの結果のターゲットとなるので、ほかの2種類のターゲットと違い、ターゲットの顧客像が具体的になり、社内のメンバーと共有しやすいです。
ただし、どこまで細かく設定するかは、効果を見極めながら考えることが必要です。
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コミュニケーション・ターゲット
どのような人をターゲットとしてコミュニケーションを取るかということです。
コンセプチュアル・ターゲットとの違いは、実際に買うかどうかは関係なく、どんな人に知ってもらいたいか、という視点で的を絞ります。
たとえば、スーパーなどで買い物をするのは主婦でも、実際に使用するのは子どもであったり夫であったり、実際に購入を決定する人とそれを使う人は違う場合が多くあるのです。
また、ターゲットにしたグループ層と実際の購入層が異なることもよくあります。
30代女性にターゲットを絞った商品でも、実際に購入するのは40代の女性である場合もあるでしょう。
どんな人に知らせたいか、知ってほしいかをターゲットの種類とするという意味で、商品の情報について届ける宣伝を効果的に届けたいときなどに適したターゲットの絞り方といえます。
プロモーション・ターゲット
プロモーション・ターゲットとは、会社のブランドターゲットの中に存在するグループの中から的を絞ることです。
ブランドターゲットとは、いわゆるブランドのファンである顧客を指します。
ブランドのもつ価値観と一致した価値観をもった顧客層であり、もっとも効率良く販売活動ができる対象グループです。
重要なのは、このブランドターゲットは、まだ会社の商品を知らない人や、知っているけれど購入したことがない人に対して広告塔の役割を果たす場合があることです。
特に近年は、SNSの普及によってこの傾向は強まってきています。
TwitterやFacebookがきっかけで、今まで知らなかったブランドを知ったり、購入したりしたことがある人もいることでしょう。
P:ポジショニング
ポジショニングとは、自社と同じ商品やサービスを提供している競合他社と、自社との差別化をはかり、自社が優位な立ち位置を決めることです。
細分化・選択した市場で、自社の商品・サービスがどのように顧客を満足させられるかを考えます。
たとえば同じような商品を扱う大手の競合他社があった場合、その大手競合会社の商品ではなく、自社の商品を選んでもらうためには、どのような立ち位置でマーケティングをするか考えなければなりません。
自社の強みは何なのか、何を顧客に訴求するかを決定します。
自社の立ち位置を決める、あるいは確認するという場合には、ポジショニングマップを活用するのが一般的です。
ポジショニングマップは、競合他社との比較商品を、顧客が購入を決めた要因を洗い出して、比較する軸を決めます。
具体的には、値段やデザイン、楽しさなどです。
競合他社と比較したときに、自社の商品のどこに違いがあるのかを客観的に把握できます。
STP分析が重要な理由
STP分析は、市場のニーズを把握し、会社の競争優位性を確保するための作業です。
企業が成長するためには、顧客のニーズに応えられることが必須です。
また、流行の変化で顧客のニーズは日々変化し、新しい競合相手の出現で競争する環境も日々変化しています。
顧客のニーズや競争環境の変化に応じて、その都度自社を有利に市場へアプローチするために、多くの企業がSTP分析を軸にして差別化や広告戦略を考えています。
STP分析は、分析することが目的となってしまってはいけません。
ここではTP分析によって得られるものとは何かを紹介します。
マーケットの状態を明確にできる
めまぐるしく変化するマーケットの状態を常に把握しておくことは、常に顧客のニーズへ応えるために重要です。
市場における会社のポジションも、新規参入してくる競合他社により刻々と変化しています。
常に同じ方法では会社の成長は望めません。
マーケットの状態を明確に把握し、会社の立ち位置を修正することも必要となってきます。
常に変化する市場に対応し、常に会社にとって優位な立ち位置を確保するには、STP分析をして市場を把握しておくことは欠かせないといえるでしょう。
STP分析ではどこに、どんなニーズがあるか、市場にどんな競合がいるかを明確にするため、このマーケットの状態を明確にするのに役立ちます。
しかし、正しく分析するためには、日常的な情報収集が欠かせないことも頭に入れておかなければなりません。
プロモーション計画を立てやすくなる
特にプロモーションの計画を立てる場面では、具体的なユーザー像を想定することが必須です。
プロモーションの効果を最大限に発揮するためには、誰に、何を、どうやって売り込むかというポイントを明確にする必要があります。
STP分析では、特にセグメンテーションによって、「誰に」の部分が明確になります。
そのため、訴求ポイントを考え、効果的な売り込み方を考えるのに役立つのです。
また、S:セグメンテーション、T:ターゲティング、P:ポジショニングの3つの作業には、自社商品の強み・優位性を見つけることが組み込まれているのです。
独自の強みを明確にし、訴求することにつなげられます。
プロモーション計画に使う場合は、年齢や性別などといった人口統計的変数で分けるだけでなく、必ずニーズ購入までの緊急度や必要性や購入するときのこだわりなど、他の変数もからめてセグメンテーションをすると良いでしょう。
ペルソナ作成がより正確に
「ペルソナ」はラテン語で仮面を意味する言葉です。
マーケティングの世界では、仮想上の顧客像を指します。
近年は顧客のニーズが多様化していて、把握するのは難しくなってきました。
しかしマーケティング戦略を練る際は、どのような人に向けて商品を売り込んでいくのかという「どのような人」の顧客像をできるだけ具体的に把握することが非常に大切です。
そこで具体的なプロフィールをった人物像であるペルソナの設定をして、ペルソナのニーズに応えるマーケティングをすることが一般的になってきました。
ペルソナ設定は、年齢、性別、趣味など詳細にしなわなければなりません。
そこで、STP分析をすると、セグメンテーションとターゲティングによって「どのような人」の顧客増が明確になり、ペルソナ設定の基礎ができあがり、ペルソナの作成がより正確なものになります。
まとめ
STP分析では顧客をきちんと理解してニーズに応えることがポイントです。
自分自身の主観や偏見を入れず、客観的な数字や分析に基づく必要があります。
特にベテランの経験や、勘で判断しないよう注意が必要です。
情報を集め、客観的に市場の可能性についてしっかり評価することが重要になります
STP分析は事業戦略の立案など、重要な場面で用いられることが多く、この分析がしっかりしていないと、あとで事業がうまくいかなくなってしまう可能性も頭に入れておきましょう。